君の胸にもホラ、アイドル このページをアンテナに追加

2011-03-27遠く、遠く

あなたがいる、もう半分の未来 あなたがいる、もう半分の未来 - 君の胸にもホラ、アイドル を含むブックマーク はてなブックマーク - あなたがいる、もう半分の未来 - 君の胸にもホラ、アイドル

陽を透かした白いレースのカーテンが床に美しい模様を彩る。少しだけ開けた窓から吹き込んでくる風は春の陽気をまとって気持ちよい。ソファに凭れながら、このまま微睡んでしまおうか、と考えていたとき、車が止まったのが見えた。エンジン音が止み、ドアが閉まる音がする。もうしばらくで賑やかになるだろう玄関を思うと、途端に眠気がどこかに行ってしまった。

ガチャリと扉が開く音がしたかと思うと、楽しそうにはしゃぐおチビちゃんたちの声と、靴ちゃんと揃えて脱いでーとお小言ママの声が聞こえてきた。苦笑いしながらパタパタと廊下を歩く。今日は少し大きなスーパーまで行くといっていたから、荷物は多いだろう。もしかしたら車にもまだ積んであるかもしれない。

私の顔を見るなり、おチビちゃんたちが、ただいまーと破顔する。おかえり、と返しながら脱ぎ散らかしていた靴を揃えてやる。それを見た亀井さんが、もう、と頬を膨らませる。そうやって甘やかしちゃダメなんですよーだ、と怒るから、私はゴメンと謝る。パタパタと廊下を走るおチビちゃんたちに、手洗いとうがいをするように言いつけると、はーい、と返ってきた。今日も変わらずに元気で、まことによろしい。同じ事を思ったのか、亀井さんも笑っていて、優しい顔をしていた。すっかり母親の顔になった彼女にまた今日も私は惚れ直す。

玄関に置かれた荷物は大きな袋で2つだけだったので、これだけかと訊くと、今日は本当にこれだけらしい。季節限定味や新作の味が出たりするとアホみたいに買い込む人だから不思議に思ったけれど、前にアホみたいに買った商品があまりおいしくなくて食べきるのに苦労したことを覚えていたようで、それで今回は買う量を減らしたのだとか。亀井さんも人間として日々成長中のようで。そう呟いたら結構な力で腕をはたかれたので、それは失敗だった。私も成長しなければ。

買い物袋を抱えてダイニングに行くと、ソファで飛び跳ねていたおチビちゃんたちが飛んできて、早速腰にまとわり付いてくる。はは、人気者はつらい、よし、これ冷蔵庫入れたら遊んでやるぞーなんて思ってたのに、今日買った新作ジュースが気になってるらしく、それをくれとせがんで来る。ズッコケてると亀井さんがコップを取り出して、ジュースを半分だけ注ぎ、それをおチビちゃんに渡す。これだけー?これだけ。えー。えーじゃない。いつもの会話。ママは強いのでこういうとき我侭が通らないことを知っているおチビちゃんたちは、不満そうにコップに口をつけ、でも一口飲むと笑顔になって、おいしいを連発した。これはヒットみたいだ。あとで商品名を覚えておこう。

お休みなんだから、という亀井さんの気遣い(でも本当は私が一緒だとおチビちゃんたちに強請られるままに買っちゃうからだと思う)から買い物には同行しなかったのだけれど、お昼ご飯くらいはと台所に立つ。それにもまた、折角お休みなんだから休んでていいのに、と亀井さん。主婦には休みなんかないのだから、私が休みのときは、亀井さんにも主婦をちょっとお休みして欲しいんだよ、と言うと、でへへへーとだらしなく笑う。しあわせすぎて今すぐにでも抱きしめたい気持ちにかられるけれども、我慢我慢。

お昼はパスタにした。たらこがなかったのでトマトパスタになってしまったのだけれど、亀井さんもおチビちゃんたちも美味しいと全部平らげてくれた。昔もよく作ってくれたね、なんて亀井さんが言ったもんだから、どこで覚えてきたのか、ヒューヒューなんて囃されて恥ずかしかったけれど。

食休みの後はおチビちゃんたちと公園で遊ぶ。今日は天気がいいし風もそんなに強くないから遊ぶには絶好の日和だ。私としては早くキャッチボールを教えたいのだけれど、亀井さんがまだ危ないといってきかない。こういうとこは過保護なんだよね、本当。砂場でトンネルを作ったり、滑り台をしたり、ブランコをしたり。亀井さんに似たおチビちゃんたちは本当に可愛くて、亀井さんのしつけも行き届いていて、どこに出しても恥ずかしくない。私の自慢だった。お昼寝の時間が近付いてきたので、まだ遊びたいとせがむおチビちゃんたちの手を引いて家に帰る。

出迎えにこないので、もしかして、とは思ったけれど、亀井さんは一足先に夢の中だった。しーっと指を口にあてる仕草で音を立てないように、亀井さんの横に転がるおチビちゃんたちが愛らしくて、亀井さんごと抱きしめようとしたら、おチビちゃん2号に、しーって怒られた。うん、ごめんなさい。

気が付けば私も寝ていたようで、きゃっきゃっとはしゃぐ声で起こされた。起こしてきてー、と亀井さんの声がして、トタトタとおチビちゃんたちが近付いて来る音がする。目を瞑ってたぬき寝入り。結構荒っぽい起こし方をいつもされる仕返しをしてやろう。ぬふふ。いきなりどすんとお腹の上に座られて、ぐえっと声が漏れそうになる。よく耐えたと我ながら思う。そのまま鼻をこちょこちょされたので、ぐわっと目を見開いて、くすぐりあいっこスタート。2対1で人数は不利だけれど、そこは子供と大人の差。散々くすぐってやっていたら、亀井さんがなーにやってのーってガキさんみたいな言い方でやってきて、おやつ食べちゃうよーと呆れたように笑った。

おチビちゃんたちは、わーっとダッシュを決めて、私がテーブルにつくころにはもう手洗いを済ませてお行儀よく座っていた。私も手を洗って、みんなで一緒にいただきますをする。おいしいを連発する3人を見ながら、幸せを噛み締めた。本当に、幸せだと思った。あんまりにも美味しいというので、私の分もあげようとしたら、亀井さんがそれを見咎める。あー、こわい。でも本当いい母親だと思う。おチビちゃんたちの将来が楽しみだ。

おやつを食べたら晩御飯までお絵かきでもしようかな。それともパズルで遊ぼうかな。お風呂は今日は亀井さんは一緒に入ってくれるかな。おチビちゃんたちはいつまで一緒にお風呂に入ってくれるのだろう。川の字で寝られるのもいつまでだろう。

いつまでだって、おやすみを言いたい。おはようを言いたい。いただきますを言いたいし、ごちそうさまも。美味しいねの笑顔に会いたい。

いつまで。いつまでも。

これから。これからもずっと。きっと。



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亀井絵里さん、ご卒業おめでとうございます。

輝いた未来の中で、あなたの笑顔が身近な人たちをたくさん幸せにしますように。

どうか、しあわせで。