2009-06-24兼ヲタ、イラネ02
■ 女囚

どこまで続いているのか先が闇に閉ざされて分からないほどに長い廊下を私と男は歩いていた。廊下には私たち二人の靴音とジャラリと音を立てる手錠の音が響く。15個目のドアに差し掛かったとき、男がおもむろに立ち止まった。ガチャリ。ギギーッ。重たい扉が開かれ、鉄格子の窓から射す光が少しだけ眩しい。その中に浮かぶ一つの影。どうやら先客がいたようだ。男は黙って私の手錠を外すと乱暴に部屋の中へと私を突き飛ばした。それから踵を返し部屋の外に出た。ギーッ、ガーン。鉄製の分厚い扉の閉まる音が私を絶望の淵に叩き落す。もうここから出る術はないのだと、本能で理解させる音だった。
「アンタ、推しメンは?」
突然声がした。先客のものだ。シルエットで分かってたつもりだったが、女ヲタだった。
「……仲谷」
私たちがこれまで生きてきた世界では、互いの名よりも大事なことがある。それが推しメンの名。ハロショで捕まった私はもう誰に憚ることなく愛しい人の名前を告げた。仲谷、と呼べることの幸せを感じる。絶望の淵にあってもこんなにも幸せにしてくれる、まさにこの世の天使。私は仲谷を思ってそっと目を閉じる。ふうん、と一つ唸った女は続けざまに、ハロヲタ流れってわけね、と呟いた。
「そっちは?」
「あたし? あたしは……うーん、雅、かな」
「じゃ、そっちはAKB流れってこと?」
AKB流れなんて存在してるんかいなと半信半疑で尋ねると、一つ鼻を鳴らしてから、
「私はmix厨なんだよ。打てるなら、何処でも行く」
ふいと視線を窓の外にやった。つられて私も視線をやると、鉄格子に分断された空は高く、とても青かった。
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